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中堅中小企業における昨今の賃上げ動向への対処

中堅中小企業における昨今の賃上げ動向への対処

人材獲得競争の高まりと中堅中小企業における対応の難しさ

2024年4月1日、多くの企業での入社式の様子がメディアや紙面を賑わせた。同時に多くの注目を集めているのが初任給の増加に取り組む多くの大企業だろう。24年の春闘において満額回答が相次ぎ、企業によっては満額以上の回答をする起業も存在した。初任給が40万円を超えるアパレル企業や、外資系の水準に合わせて旧来の初任給を約4割向上させる半導体メーカーも存在する。背景には歴史的な物価高や少子高齢化に伴う人材獲得競争の激化が挙げられている。業界を問わず各企業は優秀な人材の確保に躍起になっている状況だ。結果として連合が3月15日に発表した春闘の第1回の回答集計は平均賃上げ率が5.28%となり、市場の予想を上回り、最終集計との比較では1991年に記録した5.66%以来の高水準となった。

日本製鉄の14.2%、鹿島の平均9%台等、さらに高い水準で推移した企業もある。多くの大企業の高い賃上げ水準が話題となっているが、中堅中小企業にとって無関係ではいられない状況だ。そもそも大企業に対しては募集に対して人材が集まる状況中で賃上げをしている状況である。昨今、若手の大企業志向の低下や中堅中小志向の高まりが言われるシーンなかではあるが、中堅中小企業も待遇ベースでの抗えないトレンドに対応していかなければいけない状況となっている。連合は賃上げ5%以上を目指し、経団連も物価上昇を上回る賃上げを経営者に促しているものの、実際に中小企業が積極的にこの水準に取り組めるかというと難易度は非常に高いだろう。

採り得る選択肢

では、中堅中小企業は現実問題としてどのようにこのテーマに取り組んでいくだろうか。まず、一番シンプルなケースとして対応できる場合は高い水準での賃上げの実施が有効だ。当然ながらこのケースでは報酬総額の増加を意味するが、可能な場合、中小企業の中で例えば初任給や若手のモデル年収水準で高いレベルを提示することができた場合、競合となる中小企業は勿論、業界によっては中堅企業や大企業の採用候補者に対しても遡及できる可能性はある。ただし、このようなケースに対応できる中小企業は非常非限られるうえ、一度上げてしまった賃金水準の引き下げは非常に困難となり、離職に直結することを忘れてはならない。

次に考えられるのが、賃金の適切な配分だ。旧来の日系企業の特徴として年功序列型の報酬体系がメリットデメリット表裏一体で言及されることが多いが、報酬総額の上限額がある中で優秀な人材を確保するためには、この仕組み自体にメスを入れる必要がある。シンプルに言えば優秀な人材とそうでない人材に対しては報酬額に差をつけるということだが、旧来の報酬制度との変更点は大きく、また、従業員にとっては不利益変更となる場合も多く、企業にとっては当然ながら慎重かつ丁寧に行う必要がある改革となる。不利益変更の合理性の担保や就業規則の周知を行わない限り一方的な変更はできず、社内にとっても大きなリスクとなるため従業員の代表や場合によっては労働組合との交渉に加えて、個別の従業員と向き合うことが重要だ。例えば、賞与を削減して月額をあげるようなケースも散見されるが、有効性が高いとは言いにくいだろう。従業員は見せかけの報酬改善には思ったより敏感であると考えて損はない。実際、よく聞かれる事例として、初任給を増加させた結果、若手の報酬が中堅社員の報酬を逆転してしまうケースがある。魅力的な初任給に惹かれて若手は採用できる可能性はあるが、実際の業務の主要な戦力である30代のエンゲージメント低下や離職を招いてしまっては会社の事業に影響が出る上、せっかく採用した新卒社員の教育環境も失われる。

当社の提言(第三の選択肢)

中堅中小企業において、昨今の限られた人件費の中で人材競争に対応することの難しさはここまで述べたが、当社としては本トピックへの対応は報酬増加に閉じたものではないと考えている。そもそも、人事制度はうまく設計され運用できているのか、これまでの人事制度が今後も有効なのかを検証する必要があるのではないか。よって、このトピックを検討する際には、自社の従業員の人事制度に対する課題感がどのようなものに基づいているかを紐解いた上で制度を再構築すること重要だ。特に報酬に関して検討する際には、従業員が求めていることは絶対値としての報酬額なのか、昇給幅なのか、貢献度の報酬への反映なのか、それによって対応策は全く異なるはずだ。弊社のご相談いただく企業様の中でも「若手が活躍しても年功序列でしか報酬が上がらず、賞与にも反映されないため頑張る意欲が低下する」であったり、「賞与に直結する重要な指標であるはずの評価の運用が曖昧で納得感がない」といった不満が挙がるケースもある。例えばこのようなケースでは絶対値としての報酬の向上を実施したとしても、運用されている制度、特に「等級」「評価」「報酬」の制度面での土台整備や運用に課題があるため、エンゲージメントの向上や離職の防止につながらない可能性が高い。物価高の中での従業員の生活レベルの維持や、企業としての競争力向上のためにも、賃上げ自体は中堅中小企業においても避けては通れないテーマだからこそ、「安易に決定し引き返すことのできない賃上げ」や「実施したが将来的に見直すことになる賃上げ」ではなく、中長期的な経営戦略や事業戦略から「従業員にどのように報いていくか」を検討し、そのために必要な盤石な制度(等級・評価・報酬)を一枚岩で整備していく必要があるのではないか。制度全体を整備し、従業員が活躍できる環境を再設計することが、企業のトップライン向上に貢献し、中期的に比較的大きな賃上げを目指す選択肢もあってよいはずだ。

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