コラム

新規事業

不確実性を乗り越え、新規事業の成功確率を最大化させる事業性検証の方法

不確実性を乗り越え、新規事業の成功確率を最大化させる事業性検証の方法

これまで以上に市場環境の変化が激しく、やあらゆる分野のイノベーションが加速する“VUCAの時代”において、企業にとって新規事業開発は持続的な成長に不可欠である。一方で、多くの企業が新規事業の立ち上げに苦戦し、成功確率はわずか10%とも言われる。その原因の一つは「事業性検証の不十分さ」であることも多々あり、今回のコラムでは事業性検証の進め方や陥りがちな「罠」について解説する。
新規事業開発に取り組む担当者の方はぜひ最後まで読んでいただきたい。

事業性検証の重要性と目的

まず、新規事業開発における「事業性検証」とは、事業アイデアの実現可能性を様々な観点で評価し、事業立ち上げの成功確率を高めるために必要なプロセスである。具体的には、市場調査、顧客分析、競合分析、収益性分析などを通じて、当該事業領域の潜在的なリスクや参入機会を明らかにし、意思決定の精度を高めることを指す。

実際に新規事業を立ち上げる際のよくある失敗例として、「アイディア先行で事業開発を進めた結果、初期段階での市場調査や競合調査が不足し、事業立ち上げ後に想定より販売量が伸びなかった」であったり、「技術ドリブンでの開発を進めてリリースはしたものの、顧客ニーズとはズレたものができてしまい全く売れなかった」といったケースをよく耳にする。事業性検証の目的は、こういった事業開発の失敗を防ぎ、少しでも成功確率を高めることであり、具体的には、①Go/No-Go判断(事業化の是非を客観的に判断し、リソースの無駄な投資を防ぐ)や、②事業計画の具体化(事業戦略、マーケティング戦略、収益モデルなどを具体的に策定し、実行計画を明確にする)、③投資家へのPR(事業の将来性と収益性を示し、資金調達を円滑に進める)等の位置づけとなる。

事業性検証の5つの観点と陥りがちな「罠」

事業性検証は、「顧客価値」「市場拡大性」「競合性」「事業性(収益性)」「実現可能性」5つの観点で検証を行う必要があり、それぞれ具体的な検証項目やよくある失敗例を見ていく。

顧客価値

顧客価値検証においては、「誰をターゲットとするのか?(顧客セグメント)」、「顧客のどのような課題を解決するのか?(顧客の課題解決)」、「顧客は本当にこの製品/サービスを必要としているのか?(顧客ニーズ)」、「当該サービスを利用することによって顧客はどの程度満足するのか?(顧客満足度)」、「どのようにチャネル・集客方法で顧客を獲得するのか?(顧客獲得戦略)」といった要素を検証していく必要がある。この段階で自社の技術や強みに固執(=プロダクトアウトの発想)しすぎると、顧客の課題やニーズの深堀りが不十分になり、結果として顧客ニーズとズレた製品やサービス設計となってしまう可能性が生じる。また、ターゲット顧客を絞り込みすぎて潜在的な市場を見逃してしまったり、逆にセグメントを広く取り過ぎた結果、顧客ニーズの解像度が浅くなってしまうといったリスクが考えられる。提供価値の過小/過大評価も適切な価格設定や顧客の期待値コントロールに影響するため、適切な検証が必要である。

こういった検証を行うにあたっては、製品・サービスの特性に合わせて「プロダクトアウト型」と「顧客中心主義」の割合を調整したり、複数のアンケートやインタビューを通して、定量/定性、少数深め/多数浅めといった多面的な顧客ニーズの調査が求められる。MVP(Minimum Viable Product)を制作して、最小機能で顧客の反応を見るのも有効な検証方法である。

市場拡大性

次に、市場拡大性という観点では、「市場規模はどの程度か?」、「市場は今後どの程度成長するのか?」「市場のトレンドはどういった状況か?」、「参入障壁は何か?(高いか、低いか)」、「競合に対してどのような優位性があるのか?」といった要素を検証していく必要がある。市場性に関する検証においても、TAM(Total Addressable Market)を過大に見積もり、市場ポテンシャルを誤解して事業展開を進めてしまうリスクや、参入障壁となり得る法規制や流通網、ブランド力などの要素を軽視した結果、いざプロダクトを市場投入する段階で予期せぬ障壁にぶつかり、市場投入が遅延してしまうといった可能性も考えられる。

実際に市場性の調査をする段階においては、TAMに加えて、SAM(Serviceable Available Market)やSOM(Serviceable Obtainable Market)もボトムアップで算出し、現実的な市場規模/市場獲得可能性を検討する必要がある。また、参入障壁に関しても表面的なデスクトップ調査だけでなく、専門家や関連事業者に詳細なヒアリングを行うなど綿密な調査が求められる。

競合性

競合性という観点では、「競合事業者は誰か?」、「競合の強み・弱みは何か?」、「自社サービスの競合優位性は何か?十分か?」、「競合との関係性はどのようなものか?」といった要素を検証してくことになる。この観点においても、よくある失敗例として「競合の定義の誤り」や「競合情報の収集不足」、「差別化戦略の甘さ」などが挙げられる。「競合の定義の誤り」としては、直接的な競合だけでなく、間接的な競合や代替製品・サービスも含めて包括的な競合ベンチマークが必要となるケースが多いなかで、直接的な競合のみに目を向けてしまうと、十分な差別化戦略を検討することができなかったり、参入障壁(リプレイスによる顧客獲得)を見誤る懸念がある。

例えば、国内市場向けの新しい家電製品を開発する際、国内の家電メーカーのみを競合とみなし、海外の新興スタートアップ企業の存在を考慮しないケースを考えてみると、競合とみなした国内メーカーには製品力で勝っていても、海外の新興スタートアップが全くの新技術を応用して市場参入してきた際に、当該製品に太刀打ちできず製品の販売数が想定を下回り、大量の在庫を抱えるといった結末も十分に考えられる。純粋な海外大手企業であれば当然競合性検証で考慮には含めるだろうが、新興スタートアップとなると情報も限られており、競合として見落としてしまうケースもあるのではないか。また、競合を正確に定義できたとして、次にありがちな失敗は「競合の強み、弱み」を過小評価してしまうケースであろう。具体的には、製品価格や機能性などに偏った競合分析をした結果、to Cビジネスでは競合のブランド力や顧客ロイヤリティを過小評価してしまったり、to Bビジネスでは競合の長年培った技術力・ノウハウや内部のオペレーション、顧客サポート体制、顧客ネットワーク、周辺エコシステムなどの表面的には見えづらい要素を見落としてしまうケースである。SaaS製品を新規開発するケースを考えてみると、競合の価格と機能性のみに着目して自社サービスの優位性をPRしたものの、実は競合の強みは「内部のオペレーションの効率性」やそれに裏打ちされた「顧客サポート体制の厚さ」であり、価格や機能のリッチさのみを訴求しても競合企業からのリプレイスによる顧客獲得が困難であった、といったケースも存在する。

実際に競合企業の調査を行う際には、「競合企業の対象は十分か?」「競合企業の真の強みは何か?」「顧客は何に惹かれて競合企業から製品・サービスを購入しているのか?(=Key Buying Factor)」といった調査を解像度高く行うことが重要となり、競合のポジショニングマップの作成や詳細なSWOT分析を実施することも有効的である。

事業性(収益性)

事業性に関しては、「収益モデルは明確か?」「顧客の価格受容性は問題ないか?」「市場規模から推定される収益規模はどの程度か?」「原材料費、開発費、マーケティング費、人件費などのコスト構造は正確に試算できているか?」「損益分岐点はどこか?」「キャッシュフローは健全か?」「投資回収期間はどの程度か?」などの観点があげられる。まず、収益モデルに関しては、商品販売益、広告収入、サブスクリプション収入、販売手数料、仲介手数料・・と複数の収益モデルが存在する中で、単一の収益モデルのみの検討に留まっていたり、収益計画の解像度が荒い場合、いざ商品・サービスを上市した後に想定より収益が上がらず苦戦するといった事態にも成りかねない。モバイルアプリケーションの開発を例に挙げると、基本プレイは無料でアイテム課金を行う一般的なフリーミアムモデルを採用したものの、課金ユーザーの割合や課金単価が低く、収益が伸び悩んだといった事例もよく耳にする。この事例では、類似サービスを参考にすることでユーザーの課金割合や課金単価の設定を最適化したり、ゲーム自体に低価格の料金を設定する、広告収入モデルも検討するなど収益モデルの改善施策は複数考えることができる。また、コスト構造に関しても、ソフトウェア開発の場合は開発期間が延びることで想定以上に原価がかかったり、製品上市後のマーケティングに苦戦した結果、想定より広告費用がかさみ営業赤字になってしまう、といったケースも往々に発生するため、各費用にバッファを積んで予算を確保することも重要である。

実現可能性

最後に実現可能性の検証については、「技術的な実現可能性」、「法的規制による実現可能性」「組織体制の整備」「人的リソースの確保」「必要資金の確保」といった複数の観点で事業そのものの実現可能性を検証する必要がある。例えば、新規事業として最新の深層学習モデルを活用した高度な画像認識システムを開発する場合、必要な学習データの収集やモデルのチューニング、精度検証に想定以上の時間がかかることを考慮して、現実的なスケジュールを立てる必要があるし、消費者の個人データを活用する形式のサービスの場合、事前に専門家(弁護士など)に相談し、個人情報保護法や特定商取引法などの法令遵守を徹底する必要がある。こういった事項はクリティカルに事業発足、継続に影響を与えるため、甘く見積もることなく事業性検証を行うことが重要である。

また、人材計画や組織体制も同様に事業発足に重要な要素であり、製品開発や内部オペレーション、顧客サポートなどに必要となる人的リソースを正確に見積もり、リソース確保の戦略を具体化しておく必要がある。

まとめ

上述のように、事業性検証は多角的な視点で行うことが非常に重要となる。市場調査、顧客分析、競合分析、収益性分析など、様々な角度から事業性を評価することで、潜在的なリスクの洗い出しや事業の成長機会発見に繋げることができる。こういった検証を多角的に行うにあたっては、新規事業チーム内だけでなく現場部署や外部専門家の意見徴収も積極的に行う方が好ましく、リサーチ会社が発行する有償の業界レポートや市場調査結果の活用も有効的である。また、こういった検証は客観性を担保することも重要であり、自社で消費者アンケートやデプスインタビューを行い、データに基づいた意思決定を行うことも重要である。 事業性検証は新規事業の成功確率を最大化する上で不可欠なプロセスであり、具体的な課題感をお持ちの担当者様はぜひ一度弊社へお問い合わせください。

記事をシェアする

Contact

お問い合わせ

受付時間:平日 10:00 ~ 17:00 土日祝日除く